アンドロイドは人間のように見えるロボットだ。私たちもよく映画でアンドロイドを見かける。
しかし今や日々の生活の一部になろうとしている。


さよなら」という題の劇画小さな劇場で行われる。二人の女優がたがいに話し合っている。
一人は深刻な病気に苦しんでいる幼い少女。もう一方は 家族が彼女と寄り添ってあげるために雇ったアンドロイドだ。
アンドロイドは少女を慰めるために詩を次々と読みあげる。 
劇場にいる人々は俳優の一人がアンドロイドだと知っている。
そのアンドロイドは別の俳優によって遠隔操作されている。
アンドロイドは本物の女性の声で話し、動きは人間みたいだ。
劇が進むにつれ、劇場内の人々は劇の展開に夢中になるあまりアンドロイドを見ているということを忘れはじめる。
アンドロイドはあまりに本物のように見えるため、劇の終わりまでには人々はアンドロイドを疑いなく受け入れる。
劇は観客からの拍手とともに終わる。

だれがこのアンドロイドを作ったのだろうか?

NEW WORDS and PHRASES
uncanny:不気味な valley:谷 suffer:苦しむ hire:雇う comfort:慰める remotely:遠隔で control:制御 humankind:人類 absorbed:熱中する accept:受け入れる applause:拍手 audience:聴衆  create:作る
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「さよなら」におけるアンドロイドは石黒浩によって作られた。
高校では彼は芸術家になることをいつも考えていた。
30代前半に彼はロボットを作り始めた。最近では、彼はアンドロイドを作っている。
石黒の初代アンドロイドは地震の4歳の娘をモデルにしている。

そのアンドロイドを最初に腕の中に抱いたとき、非常に奇妙なことが起こった。
アンドロイドがあたかも彼の娘のような匂いがするようであったのだ。
石黒の二体目のアンドロイドはある展示会のために作られた。
この女性のアンドロイドは人間らしく見えすぎるあまり、多くの人はそのアンドロイドがロボットであると気付かなかった。

石黒が作った三体目のアンドロイドは、自分自身の複製だった。
石黒はそのアンドロイドをジェミノイド HI と名づけた。
ジェミノイド HI は石黒の声で話す。石黒が頭をかしげると、ジェミノイド HIも頭をかしげる。

ほとんどの人がジェミノイド HI と自然な会話をすることができるが、ジェミノイド HI と共にいて、誰もが安心した気持ちになれるわけではない。
アンドロイドがほぼ人間であるかのように見えるが、あまり人間らしくないとき、多くの人は不安な気持ちになる。
アンドロイドが「不気味だ」と感じることさえあるかもしれない。
この不気味さはときに「不気味の谷」と呼ばれる。
現在、石黒はこの谷を越えるために研究をしている。どのようにしてそれを成し遂げようとしているのだろうか。

NEW WORDS and PHRASES
model:モデルに female:女性 tilt:傾かせる ease:安心した quite:非常に uneasy:不安 creepy:気味の悪い
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完全に人間そっくりのアンドロイドを作るにはふたつの段階があると石黒は考えている。
まず、人間の典型的な特徴、つまり人間の表情や体の動きの特徴をとらえなければならない。
次に、人間の発話や動きをアンドロイドに伝えるために遠隔操作の装置が必要だ。
こういったことが人間そっくりで人間のように話すアンドロイドにつながると石黒は考えている。

石黒はときどき海外の会議にジェミノイド HI を派遣するように依頼される。
石黒は日本にいて、コンピューターを使ってジェミノイド HI を遠隔操作する。
ジェミノイド HI が話すと、人々は石黒が実際にその場にいるように感じる。

なぜ石黒はこんなにも懸命にこのようなアンドロイドを作るための研究をしているのだろう。
人間のように見えないが私たちに役立つサービスを多く提供してくれるロボットも多くある。
掃除ロボットが例に挙げられる。では、なぜ人間のようなロボットなのか。
石黒がアンドロイドを作る理由は、人間であることが意味する物を発見するためである。

事実、アンドロイドは彼に興味深いものを教え続けてきた。
誰かがアンドロイドに触れると、アンドロイドを操作している人も自分が触れたように感じる。
このような経験は、私たちは自分の脳がどのように機能しているか明らかにしてくれる。
自分の研究は人間の特性の新しい見方だと見ることができると石黒は考えている。

NEW WORDS and PHRASES
capture:とらえる typical:典型的な characteristic:特徴 expression:表現する machine:機械 transfer:伝える conference:会議 operator:操縦者 research:研究
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ロボットの研究をしている研究者は他にも多くいる。
大阪大学のあるチームは多様な接触に反応できるアンドロイドを作っている。
アンドロイドはビンタが来そうだと感じると素早くよけることができるが、肩を触れられてもアンドロイドはおとなしく座ったままだ。
研究チームの主な目的は、人々がロボットだと思いもしないようなロボットを作り出すことだ。
今のところ、かなり近いところまで来ている。

高橋智隆はキロボという名前のロボットを作り上げた。
キロボは宇宙飛行士の若田光一の話し相手として宇宙に送られた。
若田がキロボに話しかけると、彼の話に耳を傾けて答えた。
「対話が私たちのアンドロイドの研究のカギだ」と高橋は語る。

他にも危険な状況での救助用アンドロイドとして開発されているロボットもある。
救助用アンドロイドは重たいものを長距離で不整地でも運ぶことができる。
他の誰の命を危険にさらすことなく負傷者を救助するために、救助用アンドロイドは使える。

他の研究者の中には自力で行動して考えることができる、本当の自律ロボットの研究をしている人もいる。
将来、家事をしたりお年寄りの介護をしたり英語を教えることまでできるアンドロイドもできるかもしれない。

私たちとアンドロイドにはどのような未来が待ち受けているだろう。

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react:反応する slap:はたく main:主要な  dialog:対話 rescue:救助 situation:状況 rough:荒い injured:怪我をした autonomous:自動の